相続&贈与
「遺言さえ遺しておけば、安心!」といわれますが、その際忘れてならないのが”遺留分(いりゅうぶん)”です。遺留分を侵害するような遺言だと、相続後に、遺留分を侵された相続人が”遺留分の減殺請求権(げんさいせいきゅうけん)”を行使して、相続トラブルに発展しかねません。
今号では、遺留分に関する相続トラブルの回避策としての「遺留分の放棄」をご紹介しましょう。
生前に”できる放棄”と”できない放棄”
親不孝な子がいる場合には、「特定の子に財産を遺したくない。いまのうち”相続放棄”させられないか。」といった相談をお受けします。生前に”相続放棄”させられるかなどを考えてみましょう。
◆ まずは、遺留分とは
民法上の遺留分は、被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹以外の相続人(例:妻や子)について「保護された相続財産の一定割合(法定相続分×1/2)の相続分」をいいます。相続でもらえる最低保証額ともいえます。
妻と子2人の例ですと、つぎのように遺留分は妻が1/4で、子が1人あたり1/8になります。
● 妻の法定相続割合(①):財産の1/2 ● 妻の遺留分:財産の1/4(=①×1/2)
● 子1人の法定相続割合(②):同1/4(子2人分1/2×1/2) ● 同遺留分:財産の1/8(=②×1/2)
◆ ”相続放棄”と”遺留分の放棄”との違い
”相続放棄”は相続人が相続で財産や債務(借金)の引き継ぎ自体を放棄することをいい、一方、”遺留分の放棄”は遺留分という民法上の権利を放棄することを意味します。
● 相続放棄:始めから相続人でなかった扱いとなり、財産も債務も相続しません。
● 遺留分の放棄:相続人としての権利は残るが、遺留分より少ない財産を相続しても文句を言えません。
◆ 他にも違いは?
上記違いの他、相続開始前後での放棄の可否、家庭裁判所の審査の要否、期限や時効をまとめてみました。
下表のように”相続放棄”は被相続人の相続開始前(生前)にはできません。一方、”遺留分の放棄”は生前でもできますので、被相続人の存命中に「予想される相続争い」を未然に防げることに。
”遺留分の放棄”は、”遺言書”とセットが決め手!
◆ ”遺留分の放棄”のメリット
被相続人が遺留分に縛られずに、思い通りに自分の財産を分けられる点が最大のメリットです。後継者などが引き継がないと事業継続に支障がでてしまう事業用不動産や自社株などが主な相続財産のケースでは特に有効です。
◆ 忘れてならない”遺言書”!
”遺留分の放棄”を活かすには、遺言書を遺しておくことが不可欠です。遺言書がなければ、たとえ生前に”遺留分の放棄”をさせていても、子は法定相続分の財産を要求できてしまいます。”遺言書(公正証書遺言がベスト)”と”遺留分の放棄”は、常にセットというわけです。
具体的な”遺留分の放棄”の手続き
◆ ”遺留分の放棄”のハードルは意外と高い!?
遺留分を放棄しようとする相続人が、家庭裁判所に「遺留分の放棄の許可」を求めて審判を請求します。家庭裁判所では、その放棄が親などに強制・強要されていないかに重点をおいて審査しています。
具体的な審査基準は、つぎの通りです。
★ 本人の自由意思による放棄か
★ 放棄の理由に、合理性と必要性があるか
★ 代償性の有無
代償性は、過去に遺留分に見合う贈与を受けていたケースや放棄に当たり現金贈与などを確実に受けているかどうかなどがポイントとなるようです。
◆ ”遺留分放棄”のキーポイント!
”遺留分の放棄”をする際は、親御さんから相続人に「放棄の必要性と共に、その相続人に対する想い」を十分に伝え、相続人の納得を得た上で手続きを進めることが後日の相続争いを防ぐポイントになります。
なお遺留分の放棄の手続きの後は、遺言書の準備をくれぐれもお忘れなく!